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2023年12月

2023年12月31日 (日)

ブルーバック あの海を見ていた

 ミア・ワシコウスカ主演の海洋保護を訴える映画「ブルーバック」を見てきました。
 公開3日目日曜日、全国6館東京2館の上映館の1つシネスイッチ銀座スクリーン1(271席)午後1時の上映は2割足らずの入り。

 サンゴの白化状況を調査し、悲観的な気持ちになっていた海洋生物学者アビー・ジャクソン(ミア・ワシコウスカ)は、母ドラ(リズ・アレクサンダー)が脳卒中で倒れたという連絡を受け、急いで故郷の西オーストラリアを訪れた。感情を表さず言葉を発しないドラに対し、アビーはうちの中にある想い出の品を見せながら話しかけ、母と過ごした子どもの頃、母が海を守るために力を注いでいた日々を思い出し…というお話。

 かなりシンプルでストレートな海洋保護を訴える作品です。
 対立する敵方が底引き網や水中銃を駆使して乱獲に走るとは言え船1隻で動くだけのコステロ(エリック・トムソン)という設定、コステロのやり方について底引き網で稚魚も無差別に水揚げすることを非難するとともに水中銃を使うことを非難する(水中銃というか銛で大きな魚だけ1匹ずつ獲るのもダメ)のはどこが一番の問題なのか(まぁ、商業的な漁業自体に反対なんでしょうね)など、どうかなと思うところもありますが、海の映像、魚たちの映像を見ると共感を覚えます。海の映像が、それほど透明度が高いものでもなく、また魚もそれほどカラフルではないところに、むしろ現実的な地に足の付いた印象を持ちました。
 同時に、そう言いながら、私が子どもの頃には学校で底引き網漁業/トロール漁業がいかに優れた漁業かを教え込まれ、国民的歌謡番組(とも今どきは言えないか)でトリを務める歌手が正義面した物理学者として環境保護派は不勉強で無責任などと言い放つような映画が大手を振って上映され(→「真夏の方程式」)、この作品のシンボルの魚(グローパー)を見てこの唇のゼラチン質が絶品なんだとか「美味しんぼ」的な発言をしかねない日本の民は、主観がどうあれ客観的には、アビーやドラの側よりもコステロの側(コステロの背後)にいる(世界中で魚を乱獲しまた買いあさることで乱獲を呼び起こしている)ことを、忘れてはいけないんだと思います。

2023年12月24日 (日)

PERFECT DAYS

 主演の役所広司が日本人俳優として19年ぶり2人目のカンヌ国際映画祭男優賞を受賞した映画「PERFECT DAYS」を見てきました。
 公開3日目日曜日、kino cinéma新宿シアター1(294席)午前11時50分の上映は2割くらいの入り。

 スカイツリーに近い下町のアパートに住む平山(役所広司)は、早朝近隣の人が落ち葉を掃く音で目覚め歯磨きをしひげを剃り自宅前の自販機で缶コーヒーを買い、バンを運転してカセットテープで古い音楽を聴きながら首都高を通って渋谷の公園の公衆トイレの清掃に通い、黙々と仕事をして、昼は林のベンチでコンビニで買ったサンドイッチを食べ、木漏れ日の写真をモノクロフィルムで撮影し、帰ると近くの銭湯の一番風呂に入り、浅草駅近の飲み屋で酎ハイを飲み夕食を摂って、本(最初はウィリアム・フォークナーの「野生の棕櫚」、その後幸田文の「木」)を読みながら寝るという生活を送っていた。そこに、同僚の清掃員タカシ(柄本時生)が彼女を連れて車や金を借りようとし、家出した姪のニコ(中野有紗)が転がり込んだり、ほのかに思いを寄せるクラブのママ(石川さゆり)が男と抱き合っているのを目撃するなどの事件が起こるが…というお話。

 公衆トイレの清掃員が主人公の映画ということから、お仕事映画というか、エッセンシャルワーカーとしての清掃員という面が中心かと思ってみたのですが、そういう側面もあるものの、どちらかというと、決まった日常を淡々とこなす日々を送ることに幸せを見出すという点に主眼のある作品と見えます。職人気質的な生き方と、木漏れ日の美しさを感じ取る感性を讃えるという感じです。
 高望みをするのではなく、堅実な人生をというメッセージですが、それは、とりわけ企業経営者/権力者側主導で言われるときには、社会に不満を持つなということでもあります。
 母(平山の妹:麻生祐未)がニコを連れ戻しに来たときにもニコの反抗による修羅場を作らず、クラブのママの件でも平山は自分の気持ちや意志を明らかにしないなど、平山が周囲の人間関係やできごとに踏み込んでいかずに過ごす、平山の真意は定かでなく、情熱や高ぶりは見えないままの姿を「PERFECT DAYS」と呼んでいいのか。それを奴隷の幸福と疑う者には楽しめない作品ということになるでしょう。

2023年12月 3日 (日)

隣人X 疑惑の彼女

 人間の姿をコピーして生きる惑星難民Xが受け入れられている世界でXと疑われた者とスクープを狙う記者を描いた映画「隣人X 疑惑の彼女」を見てきました。
 公開3日目日曜日、新宿ピカデリーシアター5(157席)午前10時45分の上映は8割くらいの入り。

 人間の姿をコピーして生きることができる惑星難民Xをアメリカが受け入れることを決定し、日本政府もそれに追随したが、世間ではそれを不安視する声があり、週刊東都は日本に暮らしているXを暴き出す記事を目論み、うだつが上がらない契約記者笹憲太郎(林遣都)は、編集部が絞り込んだX候補のうち2人、コンビニと宝くじ売り場でバイトする柏木良子(上野樹里)と柏木が勤めるコンビニと別に居酒屋でバイトする台湾からの留学生林怡蓮(ファン・ペイチャ)を見張り盗撮していたが、意を決して宝くじ売り場でスクラッチくじを買い、柏木に話しかけ食事に誘い…というお話。

 宇宙人/地球外生命体への畏怖と排斥を描くことで外国人等の排斥・差別を問い、排外意識と偏見を煽るメディアの問題を指摘する作品ではあります。
 しかし、原作が持つ底辺を生きる/虐げられた者の怨嗟の念を、原作の最初のエピソードの中心人物の派遣社員土留紗央関係を全部カットすることで大企業正社員と派遣労働者の格差と派遣労働者の恨みと哀しみを消し去り、主人公となる柏木良子の両親が経営するコンビニが近くに直営店を出店されて苦しみ高額の違約金のために中途解約もできない(原作126ページ)という加盟店の本部への恨みに触れない(微妙なニュアンスはあったかもしれませんが、少なくともはっきりとは言わない)など、大企業への恨みを描かない姿勢が感じられます。排外主義の問題に集中したとおっしゃるのかもしれませんが。

 主人公の柏木を本が好きな人物にして、星の王子さまの「心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。かんじんなことは、目に見えないんだよ」という台詞を言わせ、この作品でのキーワードにされています(原作にはなし)。それはそれで、ちょっと沁みるのですが、ただそういうことなら、弱者を踏みにじり、異端を排斥することを商売のタネにしている極悪雑誌社の記者笹を心で見て、いい人だと評価したり、許すべきものなのか、私には疑問に思えました。

 原作は2020年10月に読んでいて(読書日記は2020年10月15日の記事で紹介)、今回映画を見て改めて読むと、前に読んだときよりちょっといいかなと思いました。
 映画では、土留紗央関係が全部カット、柏木良子は過去の経緯カット、柏木とコンビニでともに勤めるベトナム人を台湾人に変更、笹は祖母が生きていて施設に入所していて笹はそのために金に困っていたことに変更、原作では出てこない雑誌社側のことを追加し、柏木が本好きで、報道後転居してブックカフェを開くことに変更しています。原作よりも柏木を比較的純粋で意志を明確に持つ人物にして笹にも苦しい心情があったと描きラブストーリーに寄せている印象です。

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