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2023年3月

2023年3月19日 (日)

フェイブルマンズ

 ハリウッドの巨匠スティーブン・スピルバーグの自伝的作品とされる2023年アカデミー賞7部門ノミネートにして受賞0の映画「フェイブルマンズ」を見てきました。
 公開3週目日曜日、新宿ピカデリーシアター7(127席)午前10時25分の上映は9割程度の入り。

 幼少期に両親に連れられて初めて映画を観たサミュエル・フェイブルマン(サミー:ガブリエル・ラベル)は、その映画「地上最大のショウ」の列車衝突(crash)シーンが忘れられず、誕生プレゼントに列車の模型をねだり、映画のシーンの再現を試みる。技術者の父バート(ポール・ダノ)から何故破壊するのかと叱られても衝突シーンにこだわるサミーに、母ミッツィ(ミッシェル・ウィリアムズ)は、衝突シーンを撮影して繰り返し見るように勧め、サミーは模型での衝突を再現して撮影した。その後撮影とフィルム編集を続けるサミーに対して、バートは趣味はほどほどにしておけと言い、サミーは趣味じゃないと抗議し、家族の行事を記録したり、友人を集めて演技指導して映画を作り続けるが…というお話。

 スピルバーグの「自伝的作品」と紹介されるのですが、描かれるのは幼少期から映画の仕事に就くまでで、仕事を始めてからどのようにして映画を作っていったか、どのように巨匠となっていったかは、まったく触れられません。映画監督としてのスピルバーグについての描写を期待した(誤解した)観客も多かったと思われ、エンドロールが始まるや足早に退出する人が多くいました。
 この作品で、スピルバーグが映画に興味を持ち、子ども時代からフィルム撮影と編集を繰り返し手作りで映画を制作していたことは描かれていますが、むしろピアニストとしての才能を持ちながら専業主婦となり、優しく包容力があるもののワーカホリックの夫との関係と夫の仕事(転職)のために転居を強いられることに不満を持ち耐えられなかった母の女性としての生き様、葛藤、それをめぐる家族の物語としてみるべきでしょう。その意味で、それが映画監督の母であるかは2次的なものともいえる、そういうふうに割り切って観ることができれば(スピルバーグの自伝的作品という枠を取っ払っても観る気になれれば)味わい深いものと言ってよいと思います。
 サミーが高校の最上級生の時にバートがIBMに転職したためにカリフォルニアの高校に編入し、そこでユダヤ人差別を受けたことが描かれ強調されています。ユダヤ人差別について告発する映画が作られることはいいと思うのですが、ユダヤ資本が支配的なハリウッドで巨匠となり財をなしたユダヤ人映画監督が、ハリウッドで働き始めた後のことには一切触れないままに、それ以前の高校時代のユダヤ人差別を今になって採り上げて許しがたいこととしてアピールしても、今ひとつ観る側の琴線に触れません。
 母リア・アドラー(2017年没)と父アーノルド・スピルバーグ(2020年没)が亡くなるまでは作品化できなかったという事情なのでしょうけれども、芸術家としての成功を捨てる選択をした専業主婦の葛藤や高校生時代のユダヤ人差別というテーマが、今強い関心を持てるかというと(その種の作品はすでにたくさん観てきた人が多いと思うので)、難しいように思えます。

2023年3月12日 (日)

エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス

 2023年アカデミー賞最多ノミネート作品「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」を見てきました。
 公開2週目日曜日、新宿バルト9シアター4(80席)午前10時10分の上映は、7割くらいの入り。アカデミー賞最多ノミネート作品ですが、公開初週末興行成績は5位、アメリカでも公開初週末はトップ10にも入らず口コミで拡がって上映館が増えたものの週末興行成績は最高でも4位という作品ですので、アカデミー賞の主要部門で受賞して大きな話題にならなければ日本での観客動員は厳しいところでしょう。

 コインランドリーの経営に追われる中、税金の申告で問題を指摘され(カラオケセットの導入がどうしてコインランドリーの経費になる?)、頑固な父親ゴンゴン(ジェームズ・ホン)のサプライズパーティーの準備中に娘ジョイ(ステファニー・スー)が白人女性の恋人ベッキー(タリー・メデル)を連れてきた挙げ句、夫ウェイモンド(キー・ホイ・クァン)からは離婚を求められ、たくさんの問題を同時に抱えて煮詰まったエヴリン(ミシェル・ヨー)は、税務署のエレベーターの中で夫から、実は自分はマルチバースの別の世界から来た、巨悪から世界を救うことができるのはエヴリンしかいないなどと言われ、みんなの指がソーセージの世界などさまざまな世界を行き来しながら悪漢と戦うことになり…というお話。

 公式サイトの紹介で「悪の手先に襲われマルチバースにジャンプ! カンフーの達人である別の宇宙の〈私〉の力を得たエヴリンの全宇宙を舞台にした闘いが幕を開ける――!」とされていますし、エヴリンとジョイが石になって話し合うこの作品でもっとも哲学的なシーンが挟まれているのを見ると、実際に行き来しているという設定のように思えますし、バカなこと(お漏らしをするとか、鼻に噛みつくとか)をするとエネルギーが蓄積されてパワーアップするということから、コミカルなSFアクションという位置づけなのでしょう。しかし、私には、見ていて、人生のさまざまな場面での選択について、エヴリンがこうすればよかった、こうしていればこうなったかもしれないという妄想のように感じられました。そういった中高年の後悔と悲哀に満ちた人生へのノスタルジーと現実逃避がテーマなのではないかと思います。
 基本的には、中高年、特に中高年の女性が、自分にあり得た人生を思い起こし、さらには自分のような平凡な人間にも活躍の機会がありうると想像をたくましくする/夢想するというニーズに応える作品でしょう。

 年齢制限なしの映画ですが、久しぶりに映画館でモザイク・ぼかしを目にしました。そのぼかしたもののわりとリアルな形状のおもちゃは堂々登場して、何が隠されるべきなのか、ちょっと考え込みました。

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