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2023年2月

2023年2月26日 (日)

逆転のトライアングル

 2022年カンヌ国際映画祭パルムドール受賞作「逆転のトライアングル」を見てきました。
 公開3日目日曜日、休館を1月半後に控えた渋谷Bunkamuraル・シネマ1(152席)午前10時20分の上映は2割足らずの入り。パルムドールに加えてアカデミー賞作品賞ノミネート作品の公開直後としてはかなり寂しい。

 ファッションモデルのカール(ハリス・ディキンソン)は、モデルでSNSのインフルエンサーとして稼いでいるヤヤ(チャールビ・ディーン)と交際中、より稼いでいるヤヤがレストランで支払をする素振りも見せずおごられて当然という姿勢でいることにクレームをつけ、お互いに利用しているだけと言われ、悄然とする。ヤヤが無料で招待されて、2人は大金持ちを乗せた豪華客船でのクルーズに参加するが、乗客は自慢話や我が儘を言い放題、船長は飲んだくれて船室にこもったままという状態で…というお話。

 原題は「 Triangle of Sadness 」ですが、邦題では「逆転のトライアングル」とされ、それに合わせて公式サイトでも「現代の超絶セレブを乗せた豪華客船が無人島に漂着。そこで頂点に君臨したのは、サバイバル能力抜群な舟のトイレ清掃婦だった――。」というキャッチコピーを採用しています。
 3部構成の第3部では、無人島漂着後の話ですが、全体としてみると、カールを初めとするファッションモデルが雇われる企業(ブランド)に応じて節操なく態度を変える様子、外見だけの無内容さ(第1部)、富豪たちの我が儘さと人生と日常生活に退屈する様(第2部)、無人島でかりそめの権力を得たもののその儚い様子(第3部)といった内実のない人の行いの愚かさ、虚しさ、哀しさが通しテーマだと思います。
 原題の「 Triangle of Sadness 」は、眉間のしわの意味で、カールがモデルのオーディションで力を抜いて眉間のしわを消せと指示されるところで登場します。その前に、オーディションの順番待ちで控え室でたむろするモデルたちが取材者から、男性モデルなんて女性モデルの3分の1のギャラでゲイじゃないかと疑われる仕事なのになんでやりたいかと言われ、バレンシアガのときの強い表情とH&Mのときの笑顔を交互にやらされるなどしてからかわれる様子の映像があり、そういったモデルの仕事とそれに従事する自分自身への失望、哀しみを、あるいはそういった感情さえも捨てることを要求される非人間性を、このタイトルで表しているのだと思います。
 豪華客船での富豪たちの様子も、公式サイトで「カンヌ国際映画祭では会場爆笑!」と謳っているのですが、私には笑いのツボがヨーロッパの映画関係者とは違うのか、愚かしさ、虚しさの方が強く感じられました。

2023年2月12日 (日)

すべてうまくいきますように

 脳卒中で倒れ体の自由がきかなくなった父が安楽死を希望し家族が翻弄される映画「すべてうまくいきますように」を見てきました。
 公開2週目日曜日、新宿武蔵野館スクリーン2(83席)午前9時45分の上映は6~7割くらいの入り。

 裕福な元実業家で美術品コレクターの父アンドレ(アンドレ・デュソリエ)が脳卒中で倒れ、妹パスカル(ジェラルディーヌ・ペラス)とともに病院に駆けつけた小説家のエマニュエル(ソフィー・マルソー)は、医師から今後も再発のおそれがあること、抗うつ剤を処方することを告げられた。彫刻家だった母クロード(シャーロッド・ランプリング)も介護者に付き添われ杖を突いて病院を訪れるがすぐに帰ってしまい、エマニュエルが連日病院に通うことになった。アンドレは順調に回復している様子だったが、エマニュエルに「終わりにしたい」と告げて安楽死を求め、エマニュエルははぐらかして先送りにするが、アンドレは繰り返しエマニュエルに安楽死の準備を進めることを求め…というお話。

 体が思うように動かなくなり、他人の介護なしに生活ができなくなると、そのような形で生きながらえたくないという判断について、どう考えるか。自分でも観念的にそう考えたこともありましたが、この作品のアンドレのように、車椅子生活とはいえ、上半身を動かすことにそれほど支障もなく(エマニュエルの腕を振り払ったりしています)、意識もしっかりし会話に不自由ない状態でそのように言われると、何を贅沢なことを言っているのかと思えます。そこは、病者側から見るか家族側から見るか、自分の年齢や体の状態、家庭環境等によって、見方が大きく左右されるところかと思います。私の経験でいえば、坂本弁護士一家拉致事件(当時は拉致事件と呼ばれていました。実際には殺害事件)の発生時、日弁連広報室嘱託だった私には、対立関係にあった弁護士への攻撃、司法制度に対する攻撃への怒りが主な感情でしたが、1年後に自分の子どもが生まれると、乳幼児までが連れ去られた(実際には殺害された)ことへの驚きと悲しみ(親族への同情・共感)の感情が支配的になりました。人間の見方はそれほどに自分の状況に揺り動かされるのです。今の私には、アンドレを見ていると、そんなに元気なのに、これでは生きる意味がないとか死にたいとか言わないでよという気持ちが強く生じます。

 アンドレが、体調や機嫌がよくなっても、安楽死にこだわり続ける動機については特に踏み込まれず、基本的に、驚き戸惑い振り回される家族の側の事情・心情が描かれています。
 それは、むしろ安楽死を考えている人に対して、安楽死など言い出すと家族がたいへんな思いをするからねと言っているようにも見えます。

 いい感じに歳を重ねたソフィー・マルソーの抑えた戸惑い・哀しみの演技が見どころかと思います。

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