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2022年3月

2022年3月27日 (日)

ベルファスト

 北アイルランド紛争の中で1969年8月に起こったプロテスタントによるカトリック系住民襲撃の暴動に翻弄される家族を描いた映画「ベルファスト」を見てきました。
 公開3日目日曜日、WHITE CINE QUINTO(108席)午前9時30分の上映は4割くらいの入り。

 北アイルランドの首都ベルファストのカトリック系住民集住地域に住むプロテスタント家族の9歳の息子バディ(ジュード・ヒル:新人)は、税金の支払いに苦しみながらも実直に生きる母(カトリーナ・バルフ)、現実主義的な祖母(ジュディ・デンチ)、穏やかでユーモアのある祖父(キアラン・ハインズ)、年の離れた兄ウィル(ルイス・マカスキー)、ロンドンに出稼ぎに出て1~2週間に1度帰って来る大工の父(ジェイミー・ドーナン)とともに平和な日々を送っていた。ところが、1969年8月15日、プロテスタントの一団がカトリック系住民を地域から追い出そうと火炎瓶や道路の敷石を投げ暴動が生じた。そのニュースを聞いてロンドンから駆けつけた父は、プロテスタントの暴徒のリーダーからカトリック系住民襲撃に加担するよう求められて拒否したために家族への危害を予告されて動揺し…というお話。

 プロテスタントが多数派のベルファストの少数派のカトリック系住民集住地域の中に混住するプロテスタント家族という難しい立場に置かれた者を主人公に、プロテスタントとカトリックが対立し暴動に発展する中で、どのように生きるか、住み慣れた街にとどまるか移住するかの苦悩の選択がテーマです。北アイルランド紛争の中でも武装テロやゲリラ戦ではなく、比較的小集団による暴動での一家族の動向に焦点を当てていることで、宗教対立・民族対立などさまざまな対立抗争に不本意に巻き込まれる状況を普遍的に描写できているように思えます。
 この家族にみられるように、宗派の対立や民族間の対立の最中でも、みんなが他方を憎み嫌悪しているわけではなく、むしろ宗派や民族が違っても仲良くしたい、少なくとも敵対したくないと思っている人が多数いる/実はそれが多数派かもということに改めて思い至りました。プロテスタントでもカトリックでも、聖書には「汝の隣人を愛せよ」と書かれ、教会でそう教えられているはずですし。
 そして、一家族を描き続けることで、抗争中の地域でも、そこで生活している住民は、ごくふつうの穏やかに実直に生きている人たちなのだ/少なくともそういう人が少なからずいるのだということを示しています。

 家族の中で、さまざまな顔を見せる実直な母が実に魅力的です。また同級生のキャサリン(オリーヴ・テナント)に思いを寄せるバディの様子と、カトリック系の住民で優等生ながらバディに思いを寄せるキャサリン(テストの点数順に座席が決まる教室で、毎回1位のキャサリンの隣に座るためになかなか3位より上に上がれないバディが策を弄して2位になったときキャサリンが4位だったのは、運命のいたずらなんじゃなくて、キャサリンがバディの隣に座ろうとしてわざと間違えたと、私は思います)の様子も微笑ましく思えました。
 モイラ(ララ・マクドネル)から自分が店主を奥に行かせる間にチョコバーを万引きするように言われたバディが慌ててターキッシュ・ディライトを持って逃げたことを知って、モイラはそんなもの誰も食べないと嘆きます。「ナルニア国ものがたり」第1巻でエドマンドを魔女ジェイディスの誘惑に負けさせた栄光のターキッシュ・ディライトが…時代の流れ(1969年は、「ナルニア国ものがたり」出版からまだ20年足らずですが)でしょうか、制作者の「ナルニア国ものがたり」への当てこすりでしょうか。

2022年3月20日 (日)

Coda あいのうた

 フランス映画「エール!」のリメイク版にして2022年度アカデミー賞作品賞ノミネート作品「Coda あいのうた」を見てきました。
 公開9週目日曜日、WHITE CINE QUINTO(108席)12時40分の上映は6割くらいの入り。

 アメリカ東海岸の漁村で両親と兄がいずれも聴覚障害者の家族に生まれたただ1人の健聴者の高校生ルビー・ロッシ(エミリア・ジョーンズ)は、毎朝午前3時に起きて父(トロイ・コッツァー)と兄(ダニエル・デュラント)とともに漁に出て捕れた魚を業者に売る際など父と兄の通訳を務める毎日を過ごしていた。高校で合唱部に入り、音楽教師に才能を見いだされて同期生で音大志望のマイルズ(フェルディア・ウォルシュ=ピーロ)と発表会でデュエットするように言われたルビーは、マイルズと一緒に部屋で練習するが、2人の仲を誤解した父親が「コンドームは着けろ」と大仰な手話で繰り返し、それが高校でうわさ話として広まったため、マイルズを避けるようになる。謝罪するマイルズを呼び出した日、ルビーが乗船していないところに監視員が現れ、健聴者不在での操船を見とがめられた父は…というお話。

 家業の漁業が自分なしには回らないという環境の下、毎日午前3時起きで漁に出て、捕れた魚の売りさばきなど父と兄の通訳を行い、その後高校に通うという多忙というか激務をこなし、学校では魚臭いと囁かれたり、居眠りを叱責され、音楽教師のレッスンに家業の都合で遅刻するたびに怒られるなどの嫌な思いもしながら、ブチ切れたり拗ねたりせずに対応し続けるルビーの姿は、それだけでもう(特に娘を持つ親には)鼻がツンとするくらい切ない。音楽教師からバークリー音楽大学への進学を推薦され、行きたいと家族にも宣言してみたのに、自分がいないと家業ができないことを見せつけられるやすぐさま諦めてみせる、アメリカ映画では考えがたいほどの孝行娘ぶりには、その健気さに涙してしまいます。

 聴覚障害者の家庭というと、静かな様子をイメージしてしまいますが、ロッシ家ではうるさくても気にならないということで、父親はトラック運転中その振動が心地よいとしてラップを大音響で流し続けます。ルビーがマイルズとともに部屋で合唱の練習をしていても気がつかない父フランクと母ジャッキー(マーリー・マトリン)は、ベッドをギシギシいわせ大音声を上げてセックスに励み、ルビーを困惑させます。そうか、そういうものかと思いました。もっともそれがまた別のステレオタイプの思い込み/先入観でなければいいのですが。
 高校生の娘にセックスを見られても悪びれず、あっけらかんとしているルビーの両親が微笑ましい。インキンタムシで医師から2週間のセックス禁止を言い渡されるや妻と顔を見合わせて、そんなことできるわけがないという(それもいちいちルビーに通訳させる)フランクとそうだそうだという顔のジャッキーの様子も好感が持てました。もっとも、医師の「2週間」を敢えて通訳せず、父にいつまで?と聞かれていったんは「一生」と答えたルビーは、両親のおおらかな性生活を好感していなかったのかもしれませんが。

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