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2021年5月

2021年5月23日 (日)

茜色に焼かれる

 夫を交通事故で失った後苦しみながら生きるシングルマザーを描いた映画「茜色に焼かれる」を見てきました。
 公開3日目日曜日、ユーロスペース2(145席:販売73席)午前10時40分の上映は、8割くらいの入り。

 7年前、元高級官僚の老人がブレーキとアクセルを踏み間違えたとして起こした交通事故で夫田中陽一(オダギリジョー)を亡くした田中良子(尾野真千子)は、謝罪の言葉もないことに憤り賠償金も受け取らず放棄して、コロナ禍で経営していたカフェを閉め、ピンサロで体を売り、花屋でパートをしながら、中1になる息子純平(和田庵)と2人暮らしを続け、養護施設に入った義父の施設料月10万円、夫が愛人幸子(前川亜季)に産ませた娘の養育費月6万円も支払い続けていた。純平は、中学の上級生から、母親が売春し、被害者面して税金で生活しているなどとからかわれいじめられ、良子は、花屋の取引先の娘をコネで雇うために解雇を言い渡され、ピンサロの同僚ケイ(片山友希)からどうしてそんなに我慢してるのかと問われるが…というお話。

 どんなに踏みつけられても、理不尽な目に遭っても、それでも生きていくし、そうするしかない、ということなんでしょう。
 良子の選択は、それしかなかったというわけでもないですし、合理的でもありません。
 加害者が謝罪しないから賠償金を受け取らないというのは、そういう心情はあるのでしょうけれども、交通事故の場合(加害者は元高級官僚ですし、当然対人無制限の保険をかけているはずですから)賠償金を支払うのは保険会社で、受け取りを拒否しても保管会社の儲けが増えるというだけです(保険会社は、発生する事故すべてに満額の保険金を支払っても十分に利益が出るように保険料を設定して保険商品を作っているのですから、保険会社に遠慮する必要はまったくありません)。示談に応じないという姿勢を見せることで刑事事件での処分を少しでも厳しくしたいという考えだとしたら、間違っても合意書や放棄書に署名しないことです。賠償を受け取らなくてもそれでいいという文書に署名してしまえば、遺族は納得したという扱いになり、賠償を受け取らないのに刑事処分も加害者に有利になるでしょう。合意することで刑事処分を加害者に有利にしたくないのなら、むしろ損害賠償の裁判を起こして遺族は納得していないという姿勢を見せた方がいいと思います。
 周囲の男たちへの怨みでも、良子を軽く見て弄ぼうとした点で、陽一のバンド仲間の滝(芹澤興人)も良子の中学の同級生の熊木(大塚ヒロタ)と大差ないと思いますが、熊木が圧倒的に恨まれます。滝に対しては良子がその気にならなかったからということではありましょうけど。
 しかし、現実の生活、人生で人の選択は必ずしも合理的ではなく、それでも「まぁ、頑張りましょう」と生きていくということは、あるよねというそういう作品です。

 しかしながら、一般の方がこの作品を見て誤解されると困るので、弁護士としては言っておきたいことがいくつかあります。
 加害者が謝罪しないから賠償金を受け取らないというのは、ましてやピンサロで体を売るような屈辱を受けてまで受け取らないのはあまりにも不合理です。
 先に述べたように、加害者が許せないなら、示談ではなく裁判で賠償を請求すればいいことです。この作品では、人の命が3500万円などと言っていますが、ちゃんと弁護士に相談してください。事故当時、良子は主婦だったのですから、夫の死亡は「一家の支柱」の死亡で、死亡慰謝料だけで2800万円です。当時の夫の収入が少なかったとしても、(映画では夫の学歴は出てきませんが)仮に高卒として2013年の高卒男性の平均賃金が年間454万0800円、扶養家族2人だと生活費控除率が35%、30歳だと67歳まで稼働のライプニッツ係数が2020年3月31日以前の事故の場合16.711ですから、逸失利益が 454万0800円×(1-0.35)×16.711=4932万2850円になります(2020年4月1日以降の事故の場合はライプニッツ係数が22.167になり、逸失利益の計算というか一括受取額がそれに応じて高くなります)。これに葬儀費用がつきますが、それはたいしたことないとして7800万円程度にはなります(逸失利益は、事故前の現実の収入とそれまでのさまざまな事情から将来平均賃金を稼げる可能性が低ければもっと低くなりますが、年収300万円としても3200万円あまり→総額6000万円あまり、年収200万円としても2200万円弱→総額5000万円程度にはなります)。被害者は青信号の横断歩道上ですから基本的に過失割合0です。私は交通事故は専門ではありませんが、それでも弁護士ならふつうこの程度は答えられます。保険会社の担当者は素人相手に低い数字を言うかもしれませんが、弁護士が付いて裁判所に行けば、こういう数字になります。間違っても、死亡事故の賠償額がそんなものと思わないで欲しい。
 そして、私の専門の解雇の話。花屋は、良子がルール違反を犯したとして解雇を言い渡していますが、廃棄することになっている花を持ち帰った、それも何度も何度も繰り返し注意しているのに無視して繰り返しているということでもなく、注意されたらその後は料金を払って持ち帰ったとか、店の前で電話をしてはいけないというのに違反したとか、そんなもので解雇が有効になるはずがありません。闘えば勝てるはずです。
 また、解雇は2か月前にいうことになっているはずというのですが、労働基準法上の解雇予告は30日前です。もちろん、契約で労働者により有利にすることはできます(労働者により不利にすることはできません)が、そういう使用者は現実にはあまり見ませんし、法律より労働者に有利な契約をする使用者ならふつうは契約を守ると思います。さらに、解雇通告後すぐに解雇すると30日分の賃金に当たる解雇予告手当の支払義務が生じます(払わなかったら労基署に申告すれば、労基署が使用者に対して支払うよう指導します)。このケースでは、後任者をもうひとり新たに雇うのですから、結局賃金分を払うのなら、即日解雇するよりも30日勤務を続けさせて新人に仕事を教えさせる(引継をさせる)方が使用者にとって有利です。このケースで、契約上解雇予告期間が2か月に延長されていることも、使用者が即日解雇にこだわる/即日解雇をすることも、あまり現実的ではないように感じられます。

2021年5月 9日 (日)

ミナリ

 農場経営を夢見てアーカンソー州に移住した韓国系移民ジェイコブとその家族の顛末を描いた映画「ミナリ」を見てきました。
 公開8週目日曜日、うち続く映画館閉鎖「要請」の下、東京都内82館中上映継続が14館(映画.com調べ)となっている中、シネマ・ロサ2(177席:販売は半数程度。ネット予約なしにつき、正確には不明)午後1時40分の上映は、5割程度の入り。

 カリフォルニアでヒヨコの雌雄判別に従事してきた韓国系移民のジェイコブ(スティーヴン・ユァン)は、農業経営での自立を夢見てアーカンソー州に移住した。荒れ地とトレーラーハウスを見て妻のモニカ(ハン・イェリ)は、話が違う、心臓病の息子デビッド(アラン・キム)に何かあっても病院もないと抗議するが、ジェイコブは耕運機を買い、近隣の住民ポール(ウィル・パットン)を雇って荒れ地を耕して韓国野菜の栽培を始める。夫が亡くなりひとり住まいだったモニカの母スンジャ(ユン・ヨジョン)を引き取ることになり、祖母とともに寝るように言われたデビッドは反発するが…というお話。

 タイトルの「ミナリ」は韓国語で「セリ」を意味し、この作品は野に自生するセリのような庶民のたくましさを描いています(セリは、実は日本原産だそうですが)。その点では、好感を持てるのですが、その描き方には、私は、いくつか違和感を持ちました。

 韓国系移民がアメリカ南部の片田舎で奮闘するという設定(1980年代の設定だそうです)ですが、登場人物が韓国系である故に差別的な取扱や屈辱感を持つ場面は、デビッドが教会へ行きその後のパーティーで出会った白人の子どもから、どうして平たい顔なんだと言われた場面(それもその一言で、後はこだわりなく話している)を除けば、皆無といっていいでしょう。
 差別のないあるべき世界を描いているということかも知れませんし、韓国系の主人公なら差別的な取扱を描けというステレオタイプはもううんざりだと言いたいのかもしれませんが、現実には差別がないとは考えにくい状態(アメリカ南部、1980年代の設定)でそこを無視した描き方をすることには、私は、ちょっとどうかなぁと思います。

 以下、ネタバレになりますが…
 この作品のテーマは、さまざまな苦境(息子の心臓病、経済的な余裕のなさ、水の枯渇、収穫した野菜の販路がない、祖母の病等)の下での家族の関係、絆ですが、農業経験もなく、ただ韓国系住民が多数いるからニーズはあるはずだということで農業を始めた無謀なジェイコブに対して、呆れ反発する妻がジェイコブとけんかし、カリフォルニアに帰ると言いながら、結局はジェイコブと行動をともにし付き従うというストーリーに収まります。その過程でジェイコブがモニカ(妻)に対して自分の非を認める場面はありません。
 おそらくは、今どき、白人夫婦を主人公に描けば、耐え忍ぶ妻、夫に付き従う妻という設定は相当なブーイングを受けるでしょう。それが韓国系夫婦の設定であれば許される、あるいはそういうストーリーを描きたいから韓国系の夫婦の設定にするということであるとすれば、近年流行のエスニシティへの配慮というよりも、エスニシティの利用とも思えてしまいます。

2021年5月 1日 (土)

街の上で

 下北沢の古着屋の店員の青年を中心にした青春映画「街の上で」を見てきました。
 公開4週目土曜日、東京都の「要請」によりほとんどの映画館が閉館して都内の映画館82館中14館(映画.com調べ)しか上映していない映画サービスデー、ユーロスペース:ユーロライブ(178席:販売94席)午前10時40分の上映は8割くらいの入り。

 下北沢の古着屋の店番をしている荒川青(若葉竜也)は、27歳の誕生日に恋人の川瀬雪(穂志もえか)から浮気をした、別れたいといわれたが、雪を諦められず、行きつけのバーのマスターから雪に連絡するのはもう止めろ、雪が嫌がっていると言われ、鬱屈した日々を送っていた。ライブハウスで出会った女性や行きつけの古書店の店番の田辺(古川琴音)らと微妙なコミュニケーションも持ちつつ深まらずにいる荒川に、古着屋に通って荒川がずっと本を読んでいる姿を見て卒業制作の映画に出演して欲しいという女子大生高橋町子(萩原みのり)の要請に荒川は心をときめかせるが…というお話。

 何とはない日常の延長に、ふつうの人生でありそうな小さなできごと・ラブアフェアのきっかけ・エピソードを織り込みながら、書物/出版、音楽、映画などの文化や文化とのつきあいを描いて、どこかのほほんとした切なさを味わわせる作品です。
 どうして広い家に一人で住んでいるのか、一人だけ関西弁キャラなのかなど設定に謎が多い高橋のアシスタントをする学生城定イハ(中田青渚)が、ふわっとしたいい感じでした。
 どちらかというと、心をほどきつつしんみり見る映画かと思いますが、ユーロスペースにはめったに来ないので(とっても久しぶりだったのでラブホ街の真ん中で道に迷いました (-_-; )ユーロスペースの文化なのか東京都の圧力によりほとんどの映画館が閉館したためにふだんは来ない映画難民の所業なのかわかりませんが、声を上げて笑う観衆が多数いたので、寄席を見ている感じで見ました。

 荒川がフラれた後の雪への未練がましい連絡、よりを戻そうと雪に迫り続けた様子は、マスターの言葉でしか表されていませんけど、そういう行為を正当化する、そういう人を勇気づけるというのは、今どき大丈夫かなと思いました。映像ではストーカー的な場面はなく、ストーカー行為まで正当化するということではないのでしょうけれども、ストーカー行為に及ぶ人って、自分の主観ではそんなに酷いことはしていない、自分は荒川程度だよって思っている場合が少なからずあると思います。映画が優等生的に勧善懲悪的な、迷惑行為はいつも戒められるような表現である必要はないのですが、そういうことを考えると、ちょっとどうかなと思います。

 「オール下北沢ロケ」(公式サイトのイントロダクション)だそうで、下北沢の風景・風土を味わう作品でもあります。私は、下北沢に住んだりしたことはないのですが、私のサイトのモバイル新館に掲載している小説「その解雇、無効です!2」で主人公狩野麻綾の居住地を下北沢に設定し、下北沢をロケハンしたので、見覚えのある場所も登場して懐かしく見させてもらいました。

 ところで、この作品中でおまわりさんが、自分の姉が年の離れた夫と結婚してその連れ子の姪が女優で好きになってしまった、結婚したいのだけど、いとこは4親等だから結婚できるのに、姪は3親等だから結婚できないって、2回も繰り返していっています。ちょっと、ここ、弁護士としては聞き捨てならないので、いっておきます。おまわりさん、よく聞いてください。姉の夫の連れ子(義兄の娘)と結婚するのに法律上は何の問題もありません。3親等までは結婚できないというのは、血族(血が繋がっている)の場合です。姪が姉の子(実子)だったら結婚できませんが、姉の子じゃなくてその夫の連れ子なら血族じゃないから結婚するのに法律上は何の問題もありません。だから、結婚できるかどうかは、法律の問題じゃなくて、姪を魅了できるかの問題なんですよ。健闘を祈る。

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