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2017年10月

2017年10月22日 (日)

女神の見えざる手

 凄腕ロビイストが銃擁護団体のオファーを断って銃規制法案推進に回るサスペンス映画「女神の見えざる手」を見てきました。
 封切り3日目衆議院選挙投票日の大雨の日曜日、TOHOシネマズシャンテスクリーン2(201席)午前10時の上映は7割くらいの入り。観客の年齢層は高め。

 有名なロビイストのエリザベス・スローン(ジェシカ・チャステイン)は、違法なロビー活動の疑いを受け、スパーリング上院議員(ジョン・リスゴー)の聴聞会に呼び出された。スローンは弁護士(マイケル・スタールバーグ)の指導に従い、あらゆる質問に黙秘権を行使していたが、執拗な質問に切れて答えてしまい、黙秘権を放棄したと見なされ、弁護士になじられる。
 その3か月前、スローンは、銃擁護団体から銃擁護派の女性団体を作って銃規制法案を葬り去るロビー活動を要請されて断り、上司(サム・ウォーターストン)から銃擁護団体のオファーを断るなら解雇すると言われ、チームのメンバーの多くを引き連れて銃規制法案を推進するシュミット(マーク・ストロング)の会社に移籍した。情勢は圧倒的に不利で、銃規制法案を通すには態度未定の国会議員22名中16名を味方にする必要があったが、スローンの作戦が功を奏し、勝利が近づいたかに見えたが・・・というお話。

 スローンの冷静であらゆる事態を想定した、そして冷徹な判断と、周到に準備された作戦の数々(失敗や事情変更、相手方の奇襲に応じた予備のプラン)に、驚き、感嘆し、プロの仕事ぶりを感じます。そこは素直にかっこいいと思いますし、しびれます。
 しかし、ラストの、スローンが最後に(たぶん。ひょっとしたらさらにこの裏まで用意していたかもしれませんけど)用意していた作戦は、「プロ」の仕事としては説明しにくく、スローンが何故そこまでの犠牲を払っても闘いを継続したのかに、疑問が残り、そこは今ひとつ説得力を欠くようにも思えます。
 睡眠時間を削り(そのうちに睡眠障害を生じて)薬物に依存する生活、性欲の処理はエスコートクラブから男を買って済ませるドライさ、敵を騙すにはまず味方からという冷徹さのために度々味わう孤立感など多くの犠牲を、勝利の快感のためのコストと割り切るスローンの価値観にも、なかなかついて行けないものを感じます。

2017年10月15日 (日)

愛を綴る女

 意に沿わぬ結婚をし愛を求める女の熱情を描いた映画「愛を綴る女」を見てきました。
 封切り2週目日曜日、全国7館東京で2館の上映館の1つヒューマントラストシネマ有楽町シアター1(161席)午前9時50分の上映は2~3割の入り。観客の年齢層は高め。

 南フランスのラベンダー農家の娘ガブリエル(マリオン・コティヤール)は、教師に惚れ熱烈なラブレターを渡すが突き放される。ガブリエルの奔放さを持て余した母は、ガブリエラを精神科医に診せ、雇っていた労働者のジョゼ(アレックス・ブレンデミュール)と結婚させる。ガブリエルは、ジョゼに「あなたを絶対に愛さない」と宣言、ジョゼも「俺も愛してない」と応じた。流産し、その原因が腎臓結石と診断され、医師に温泉療法を勧められたガブリエルは、逗留先で尿毒症が進んだ帰還兵のアンドレ・ソヴァージュ(ルイ・ガレル)と出会い、その病室に足繁く通い・・・というお話。

 情熱に突き動かされ奔放に行動するが、思いは満たされないガブリエルの焦燥感、渇望感と、「愛していない」と言いながら妻の行動を見守るジョゼの露わにしない献身、包み込むような愛情が描かれています。
 それをシンプルに見せるためか、原作の重要な設定である主人公(原作では名前は示されず「祖母」、映画ではガブリエル)の創作意欲、詩作と様々なことを手帖に書き込む姿、主人公と夫の奇妙な/ぎこちない夫婦生活、帰還兵の読書と新聞朗読と主人公への質問などをそぎ落としています。その結果、原作では、娼婦にやらせていたことの代わりを務めるだけの性生活、話をしても上の空で質問にまともに答えない夫への不満、他方において帰還兵は主人公の創作を理解し主人公の意見を聞きたがり尊重してくれるということから主人公が帰還兵に惹かれていったのに、映画では主人公が何故夫に心を許さず帰還兵に惹かれたのかがよくわからない、主人公の気まぐれな情動と見えてしまいます。原作でも映画でも、主人公はわがままで気まぐれなのですが、それでも自分の生き様・大切なものを理解してくれるという信条と心情が基盤になっているのと、それがない直感的なものだけというのでは、主人公の評価、主人公への共感はずいぶん変わってくるんじゃないでしょうか(映画は、主人公をより気まぐれでわがままと描いた方が「ジョゼの愛と献身」をイメージさせやすいと考えたのでしょうけど)。
 また、ラストは、原作がぼかし気味に示唆するにとどめた帰還兵と主人公の真実を、隅々まで(観客が想像をめぐらす余地がないほど)説明しています。これもまた、ジョゼの愛と献身を明確にするためですが、その分、原作にあった余韻はありません。
 総じて、原作の複雑さ、曖昧さ、登場人物の陰の部分などを排して、人物像を純粋にしてストーリーもシンプルにしていて、原作を読み終わったときの印象と映画を見終わったときの印象はかなり違う気がします。予告編で「ミレーネ・アグスのベストセラー小説『祖母の手帖』を完全映画化!」と銘打っているのですが、これだけ変えて「完全映画化!」って、どうかと思う。

 最初の方で、ガブリエルが川に入り腰まで水に浸かっているシーンがあり、スカートをたくし上げてもやっとしたアンダーヘアが見えるのが、きれいなんですが艶めかしくもあり鮮烈な印象を残します。しかし、このシーンが何をしているのかよくわからない。公式サイトの監督インタビュー(Q&A)で、監督は、「冒頭のシーンで、ガブリエルが川の水のなかに入り、スカートがめくれて水中で彼女の性器があらわになる。それこそ私が見せたかったことなの。クールベの描いた〝世界の起源〟ね。それが、この映画のテーマなの。」と答えていますが、ただマリオン・コティヤールの性器を見せたかったと?(見た印象では「性器があらわになる」という感じではないのですけど、日本版では若干カットされているのでしょうか)

2017年10月 8日 (日)

ナラタージュ

 20歳の時に「リトル・バイ・リトル」で野間文芸新人賞を最年少受賞した島本理生が大学在学中に書いた代表作的な恋愛小説を映画化した映画「ナラタージュ」を見てきました。
 封切り2日目日曜日、新宿ピカデリースクリーン2(301席)午後1時10分の上映は、9割くらいの入り。

 夜遅く一人残業中だった工藤泉(有村架純)は、雨の中を社に戻ってきた同僚(瀬戸康史)から手にしていた懐中時計のいわれを聞かれ、学生時代を回想する。大学2年になった泉に、高3の時に友人が転校してしまいクラスで居場所がなかった泉を演劇部に誘ってくれた教師葉山(松本潤)から、部員が減ってしまった演劇部の文化祭公演を手伝って欲しいと電話が入った。高校の時毎日社会科準備室に葉山を訪ねる泉に葉山は気を許しつつ、泉が葉山に付き合っている人はいないかと尋ねると、かつて結婚していたが妻(市川実日子)が義母との確執から心を病み自宅に火をつける事件があり、その後別れ、妻は東京の実家にいると答えた。先生の力になりたいという泉を葉山は突き放すが、卒業式の日挨拶に来た泉に葉山は口づけをする。泉は、卒業後ずっと連絡を待っていたと葉山に迫るが、葉山の部屋を訪れて、妻とのツーショットの写真や葉山がけなしていた映画のDVDを見つけ、葉山が妻と離婚していないことを知る。文化祭を終え、葉山と気まずい握手をして取り残された泉は、助っ人で来ていて練習の過程で泉に言い寄り泉が拒絶した学生小野(坂口健太郎)から、今から実家に行くので一緒に来ないかと誘われ・・・というお話。

 寄せる思いが実るのは簡単ではない、恋は思うに任せないということではありましょうけれど、むしろ泉にはダメ男を引き寄せる要素があるのではというようにも見たくなる作品です。
 たぶん、見た人の多くが、「松潤、はっきりしろよぉ!」と何度も机があったら叩きたくなると思います。葉山の「大人」にしてはあまりの優柔不断さ、そして一見爽やかなイケメン男子の小野の粘着系嫉妬深さ。どうして泉が好きになる男って、こういうダメ男ばかりなの?って、そう思ってしまう。
 「純愛」って言えば聞こえがいいけど、やっぱり高校生の泉の葉山に寄せる思いの初心さ一途さは、子どもっぽく、教師がそれに思わせぶりにはぐらかすというのはひどいと思う。
 原作を読んだのが12年前なもので、記憶が曖昧ですけど、原作の葉山は、単に優柔不断なだけでなくて、もっとずるかったと思います。松潤のイメージダウンを避けるために、葉山のずるさが薄められているような気がしました。

 ビジュアル的には、富山でロケしたというのに、雨や曇りの映像が多く、蜃気楼の映像がありませんでした。回想、幻想の映画ですから、どこかで使うと思ってみていたのですが、そういう俗っぽさを避けたのでしょうか。
 泉の足のアップが多かったのですが、有村架純の足の作りがわりと無骨というか肌もしっとりしてないというか、今ひとつな感じで、こういう作品なら足のきれいな女優さんを選ぶべきだったのではないかと・・・やはり泉には洗練されていない初心さをイメージさせるためとかいうことでしょうか。
 エンドロールに、「飲酒運転は犯罪です」とか・・・入れたら、笑いがとれたでしょうけど、余韻が台無しでしょうか。

2017年10月 1日 (日)

ドリーム

 アメリカ初の有人宇宙飛行計画を陰で支えた黒人女性たちを描いた映画「ドリーム」を見てきました。
 封切り3日目日曜日映画サービスデー、TOHOシネマズ新宿スクリーン4(200席)午前9時50分の上映はほぼ満席。(ネタバレ注意)

 1961年、ソ連に人工衛星打ち上げ(スプートニク)、有人宇宙飛行(ガガーリン)で後れを取ったアメリカでは、有人宇宙飛行の成功が求められ、NASAに強いプレッシャーがかかっていた。ヴァージニア州にあるNASAのラングレー研究所に勤めていた黒人女性のキャサリン(タラジ・P・ヘンソン)、メアリー(ジャネール・モネイ)、ドロシー(オクタヴィア・スペンサー)の3人は、キャサリンは宇宙船の軌道計算のために幾何学解析のエキスパートが欲しいスペース・タスク・グループに抜擢されるが「非白人用トイレ」もない中でその都度800m離れた別棟のトイレに駆け込み白人男性ばかりの職場で白人男性の上司ポール・スタッフォード(ジム・パーソンズ)に見下されながら孤軍奮闘し、宇宙船の風洞実験に立ち会ったメアリーは遮熱板の剥離の対策を論じてエンジニアへの応募を勧められたがマネージャーミッチェル(キルステン・ダンスト)にエンジニアとして採用されるにはどちらも白人しか入学を許可されていない大学(ヴァージニア大学)か高校を出ていなければならない規則があると拒絶され、西計算グループを管理するドロシーは管理職登用を求めてもミッチェルから黒人グループに管理職は置かないと拒否される。キャサリンの卓越した能力を見いだした本部長ハリソン(ケビン・コスナー)は、キャサリンがいつも大事なときに席を外していると問い詰めて、キャサリンから建物に「非白人用」トイレがなく毎度800m離れた西計算グループまで走って行くから40分もかかる、コーヒーポットさえ「白人用」と「非白人用」(非白人はキャサリンしかいないのに)に分けられて「非白人用」のポットはだれも触らないと訴えられ・・・というお話。

 黒人女性の主人公3人が、職場で、能力があってもいつまでも臨時職扱いで正社員や管理職になれない、部屋が隔離されていたり、抜擢されてもトイレやコーヒーポットも「白人用」のものは使わせない、会議には参加させない、書類には計算係の名前は書かせないなどの差別を受けつつ、それぞれのやり方でそれを乗り越えていくという過程がテーマで、それぞれに乗り越えていく場面で感動があります。

 キャサリンは、小学生にして、黒人が行ける最高の高校への入学を許された天才少女。NASAでも与えられた難題を次々と黒板に手計算で数式を連ねて解答を出し、実力を見せつけ、周囲に存在を認めさせ、本部長の信認を勝ち得ていきます。キャサリンの訴えを聞いた本部長がトイレの「非白人用」の表示を叩き壊し、これからは「白人用」も「非白人用」もない、どちらを使ってもいい、できるだけ席に近い方を使え、NASAでは黒人も白人も小便の色は同じだというシーンが象徴的です。
 メアリーは、すでにウェストヴァージニア大学(黒人も入学可:南北戦争の際、奴隷解放反対の南軍の中心となったのがヴァージニア州で、当時のヴァージニア州から奴隷解放賛成派が独立してウェストヴァージニア州を作ったという歴史的経緯があります)の大学院を出ていて本来今更高校で学ぶ必要などないのですが、ミッチェルが規則だという白人しか入学を許可しない高校に入学するため、裁判所に訴えます。メアリーは、判事の経歴を調べ上げ、何事にも初めてのことがある、あなたは一族で初めての判事だ、私はNASAで初めての黒人のエンジニアになりたい、肌の色は変えられないからこの高校に入る必要がある、判事が抱えている多数の事件に初めてを作る事件は、100年後にも意味がある事件はいくつあるかと迫ります。説得術として、参考にしたいところです。
 ドロシーは、NASAにコンピュータが導入されたのを見て、このままでは計算係は皆職を失うと危惧して、図書館に行き、非白人用のコーナーには目指す本がないため白人用書棚に行ったところ、警備員に追い出されたがフォートラン(コンピュータ言語)の解説書を発見して持ち出して、独学でコンピュータ操作を学び、白人職員たちがせっかく導入されたコンピュータを動かすこともできずにいるのを尻目にコンピュータ室に忍び込み計算を始めます。ドロシーがコンピュータを使えることがわかったNASAからの抜擢を、自分一人では嫌だと断り、計算係全員にプログラミングを教えてプログラマーとして採用させてその室長に収まります。

 差別を、運動・闘争によってではなく、個人の実力を示すことで乗り越えた黒人女性たちの物語で、ストーリーとしてはキャサリン中心なのですが、私としては、ドロシーのしたたかさが光る話に思えました。

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