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2017年3月20日 (月)

わたしは、ダニエル・ブレイク

 役所から手当受給を拒否され当惑し苦しむ心臓病で働けなくなった高齢の大工とシングルマザーの姿を描いた映画「わたしは、ダニエル・ブレイク」を見てきました。
 封切3日目月曜日・祝日、全国11館東京2館の上映館の1つヒューマントラストシネマ有楽町シアター1(162席)午前10時20分の上映は満席。

 心臓病のため医師から労働を禁止された59歳の大工ダニエル・ブレイク(デイヴ・ジョーンズ)は、支援手当の受給を申請したが、「就労可能」と判定され受給を拒否される。拒否の通知に異議を述べようとしても役所への電話はつながらず1時間48分待たされた挙句、認定人からの電話連絡の後でないと不服申立はできない、電話は認定人の手が空いたらかけるだろうと言われるだけ。憤慨して役所に行ったダニエルは、ネットで予約しないと受け付けられないとにべもなく拒否され、パソコンは使えないと言っても相手にされない。ロンドンからニューカッスルに引っ越してきたばかりで道に迷ったというシングルマザーのケイティ(ヘイリー・スクワイアーズ)を予約時間に遅れたと追い返す役人に、ダニエルは幼子を2人も連れた母を追い返すなんてひどいと抗議するが、一緒に役所から追い出される。フードバンクでの配給を受けたとき、空腹のあまりその場で棚にあった食品をむさぼり情けなくなって泣き崩れるケイティに、付き添ってきたダニエルは、あんたは悪くない、立派にやっていると励ますが、ダニエルも隣人や周囲の人々の助けを受けてパソコンから申請手続をしても、役所の壁は厚く…というお話。

 冒頭、おそらくは民間委託(アウト・ソーシング)で支援手当(日本の生活保護に相当するものと思われる)の受給要件として就労できないことの認定を担当する医師でも看護師でもない「医療専門家」が、ダニエル・ブレイクにマニュアルに沿って質問を続けるシーンが象徴的です。心臓病のために医師から働くことを禁止されたダニエル・ブレイクが、それを繰り返し述べているのに、心臓病とは関係なく、「介助なしで50m歩けるか」「手を上にあげられるか」等の一般的な質問を続け、その点数だけで機械的に判定する。ダニエルからすれば、医師から労働を禁じられているのだから、死亡/心臓病悪化のリスクを賭けるのでなければ働きようがない、それにもかかわらず手当の受給の段になると、手当を受給させないために極端に狭くされている要件(生活保護の不正受給などを言い立てるマスコミ等の連中がそれを後押ししている)を盾に「就労可能」と判定されてしまう。役所は法律(実際は役所がつくった基準)を口実に手当受給は拒否し、それを申請者側の落ち度と言い、また民間委託により責任を回避しようとする。こういった役所のやり口で、役所は手当の受給を減らし(税金は役人の給料や軍事費や銀行や電力会社の救済のような役人の目から見て有意義な使い道に回されることになる)、困っている人が、本来権利を有する手当の受給をできず貧困にあえぎ、健康を害し、またホームレスになっていく。この作品で描かれている、制度としては存在するセーフティネットが役所の都合で本来適用されるべき人に適用されない実情は、言うまでもなく、イギリスだけのことではありません。
 そして小役人、または民間人でも一定の権限を持たされた者が、弱者に対しては居丈高にふるまい権力を濫用したがるのも、普遍的な姿です。この作品ではアン(ケイト・ラッター)というダニエルの力になろうとし、ダニエルにあきらめないでと言い続けるケースワーカーと思われる職員も登場しますが、良心的な職員が少数いたとしても、組織の中でどうにもできません。
 手当を受給できず食べるものにも困り最終的には体を売ることになるケイティを、本来は助けるべき役所の代わりに励ますのが自分も手当が受給できず苦しんでいるダニエルであったり、ダニエルを最後に支援手当不支給に対する不服申立手続の専門家(弁護士と思われる)のもとに導くのがケイティというあたり、貧しい者同士の助け合う姿の美しさを感じるのですが、本来は役所がきちんとやるべきことをやっていればどちらも救われたはずなのにという思いが募ります。
 ダニエルが、自分は人間だ、犬ではないと言い、ずっと働き、税金を払ってきたしそのことを誇りに思っている、権利のはずの手当をなぜ誇りを持って/プライドを捨てずに受けることができないのかと問う姿は、りりしくも悲壮感が漂い、見ていて涙が出ます。
 こういう作品をパルムドール(最高賞)に選んだカンヌ国際映画祭の姿勢は称賛に値すると思います。

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