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2017年1月15日 (日)

ブラック・ファイル 野心の代償

 巨大製薬会社の治験データねつ造の証拠を不正に入手した若手弁護士の野心の行方を描いたサスペンス映画「ブラック・ファイル 野心の代償」を見てきました。
 封切2週目日曜日、全国10館東京で2館の上映館の1つ新宿ピカデリースクリーン9(127席)午前11時5分の上映は6割くらいの入り。

 公選弁護人事務所で勝訴を続けニュー・オーリンズの名門事務所に移籍し、ハードな残業をこなしながら11連勝していた若手弁護士のベン・ケイヒル(ジョシュ・デュアメル)は、病院勤めの妻シャーロット(アリス・イヴ)と流産以来すれ違いの日々を送っていた。元カノのエミリー(マリン・アッカーマン)からSNSで友達申請があり、妻とのデートの約束も忘れて10年ぶりにエミリーと会ったベンは、エミリーが偽名で暮らす隠れ家で愛人のピアソン製薬CEOアーサー・デニング(アンソニー・ホプキンス)のパソコンから抜き取った新薬の治験データをねつ造した決定的証拠となるファイルを受け取る。ベンは事務所の代表弁護士チャールズ・エイブラムス(アル・パチーノ)に、内部資料の入手を報告し、アーサーに対する訴訟提起を提案した。チャールズは、ベンに自分の価格を書いて見ろと、そのファイルを購入してベテランの弁護士に訴訟を遂行させようとしたが、ベンは自分をその主任にすることを求め、チャールズは渋々それを認めた。ベンはシャーロットと出かけたパブで謎の男(イ・ビョンホン)から訴訟から手を引かないと妻の笑顔を見るのは今日が最後になると脅され、アーサーの元には「12時間後にこの女を殺す」というエミリーの顔写真付きのメッセージが届き…というお話。

 新人弁護士のベンとベテラン弁護士のチャールズの言動に、弁護士のあり方、一般人が弁護士に対して持つイメージを考えさせられます。
 ベンは、「正義のためなら手を汚す」ことも辞さないという姿勢を度々示し強調しています。ここには2つの疑問があります。一般的に言って、弁護士は、「正義のためなら手を汚す」べきでしょうか。訴訟においては、ルールに従って訴訟行為を行うことが求められ予定されていて、弁護士は「ルールに従って勝つ」ことが求められているはずです。訴訟外の交渉においても、法律家として登場する以上、同様だと思います。世間一般では弁護士がルールに違反して手を汚して勝つことは期待されていないはずですし、そのようなやり方で勝訴しても尊敬を勝ち得ることはないと思います。依頼者の中にはそのような手を使っても勝ってほしいと考える者もいるかもしれませんが、それが正当な期待であるとはいえませんし、弁護士はそのような者の期待に応えるべきではないと思います。また、訴訟において弁護士がどのようにしてどこまでの証拠収集をすることが期待されるべきでしょうか。証拠は基本的には依頼者が所持しているか、そうでなければ訴訟手続を通じて入手するものです。それを超えて弁護士が独自に証拠を入手するということは現実的ではありません。リーガルミステリーでは、弁護士が調査員(しばしば元捜査関係者や私立探偵)を通じてまったく独自に証拠を入手するという設定が多く、この作品でも、ベンはハッカーの知人を通じて不正に証拠を入手しています。このようなことが期待されていると、弁護士が自ら「手を汚して」不正な方法で証拠を入手するという役割まで求められることになりかねませんが、それは誤った期待だと思います。
 チャールズは、真実よりもどう見えるかが大事だと語ります。民事訴訟の目的/役割/機能は、「真相の解明」ではなくその紛争/事件の適正な解決であること、いくら真実はこうだと叫んでもそれを立証(証明)できなければ裁判に勝てないということは、法律実務家であれば、誰しも認めるところです。それを超えて、裁判の目的が純然たる真相の解明にあるとか、証拠の裏付けのない自分にとっての「真実」(悪くいえば自分に都合のいい「真実」)が認められない限り「正義に反する」と言われても、困ります。しかし、同時に、弁護士が真実がどうでもいいと思っているわけではなく、証拠から見て通常の第三者の目からは真実と評価できる事実関係に基づいた適正な解決を目指しているものです。チャールズの言葉は誤解を招きやすいもので、不適切に感じます。

 サスペンス/ミステリー映画らしく、いくつかのどんでん返しがあり、そういう点では楽しめます。
 イ・ビョンホンの役割/パフォーマンスについては評価が分かれそうです。暗く不気味な雰囲気をよく演じていたと、イ・ビョンホンファンは評価するのでしょうし、非現実的で浮いていたという評価も可能でしょう。
 「戦慄のラストがあなたの人生も狂わせる」というキャッチ。う~ん。リーガルミステリーファンにはどこかで見たような感じがするラストのような…(どの作品とまで言うとネタバレなので…)。

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