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2014年9月14日 (日)

NO

 1988年のチリでの軍事独裁政権の信任投票の際反対派の広報を担当した広告プロデューサーを描いた映画「NO」を見てきました。
 封切り3週目日曜日、全国6館東京では唯一の上映館ヒューマントラストシネマ有楽町シアター1(162席)午前11時40分の上映は5割くらいの入り。

 広告事業主グスマン(アルフレド・カストロ)の元でやり手の広告プロデューサーとして活躍するレネ(ガエル・ガルシア・ベルナル)は、一人息子シモン(パスカル・モンテロ)と2人暮らし、反政府活動家の妻ベロニカ(アントニア・セヘルス)とは別居中だった。反対派への激しい弾圧と人権侵害を国際社会から批判されたピノチェト政権は、1988年大統領の任期延長について国民投票を実施することを決定し、反対派陣営に選挙期間中の27日間毎日深夜に15分間の国営放送でのアピールを認めた。反対派陣営「NO」を束ねるウルティマ(ルイス・ニェッコ)は同級生で家族ぐるみのつきあいのあるレネに「NO」陣営の選挙映像への助言を求め、レネは政権の正当化に使われるだけと批判的だったが、助言を引き受ける。政権の弾圧・迫害を告発する映像に、怒りでは人は動かない、明るい未来を見せるべきだと主張するレネは、活動家からコーラのCMのようだと批判されるが、最終的に映像の作成を任される。「NO」陣営の予想外の映像に焦りを感じた政権側は、グスマンを広報責任者に任命し、「NO」陣営の映像を批判するとともにレネに圧力と脅しをかけ…というお話。

 「CMは世界を変えられるのか」が公式サイトのメインキャッチコピーとされています。軍事独裁政権の国民投票による無血交代という政治ドラマを、広告の力として描くこの作品は、映画関係者側からは、広告の威力と歴史の中で縁の下の力持ちとして政権交代を実現した英雄を讃えようという意図によるものと思われます。しかし、家族や知人を殺され拘禁されながら長年にわたり地道な闘いを続けようやく国際社会の批判を引き出して国民投票にこぎ着けた反対派の活動家からすれば、最後になって出て来た広告プロデューサーが政権交代の立役者だと言われるのは納得がいかないところでしょう。映像業界の人々には広告プロデューサーの仕事の意義が過小評価されているという思い/僻みがあるのでしょうけれど、私にはむしろ映画・テレビ等の映像業界の力で広告プロデューサーらの仕事は既に過大評価されているように感じられます。その意味で、今、この作品を世に問う意味がどれくらいあるのかなという疑問は感じます。
 制作者側も、そういう意識があったのか、レネの人物設定は、いかにも広告業界っぽい派手さを排し、妻と別居中でありながら、一人息子と同居して育て、浮気もしない(少なくとも作品中に他の女性との関係は登場しない)というおとなしく誠実さを感じさせるものになっています。また、レネ自身は左翼ではないという設定ですが、父親は政権反対派に知られた人物であり、妻は反政府活動家で、環境的には左翼陣営になっています。そういう設定が、最終段階で参加した広告プロデューサーに手柄を横取りさせるのかという反発を和らげているように思えます。
 また、制作サイドは、グスマンのしたたかな立ち回りを見せることで、広告業者を英雄とだけ描いてるわけじゃないよという姿勢も見せています。

 被害・迫害/弾圧・事件に直面した当事者が被害の事実と思いを語りたいという心情と、しかしそれでは勝てないというジレンマは、実は、裁判の場面でも時々直面します。当事者からはこういうことを裁判官にアピールしたいと、当事者の経験した事実と経緯、心情からは重要でありこだわりを持つ事実をたくさん語られても、裁判官にとってその請求を認めるかどうかのポイントとなる事実と関係ない事実は多くの場合主張しても判断を示されません(この点については私のメインサイトの「民事裁判の判断の対象」で説明しています)し、むしろ裁判官にとって無意味なことを多数書き連ねると大事なことが埋もれて無視される(十把一絡げに否定される)なんてことがままあります。そういうときに当事者(依頼者)をどう説得するか、弁護士としては悩ましい思いを持ちます。そういう事件では、勝訴した弁護士もレネと同じような達成感と疎外感を味わうことになります。映画の終盤でふと他人ごとじゃないんだと思えてしまいました。

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» CMは世界を変える!?映画なり Pinochet独裁「NO」88 [千恵子@詠む...]
映画「NO」 貴重な映像なので、見参。 なんせ新自由主義研究も、しなくちっゃだから。 1988年、ピノチェト政権への国際的な風当たりが強まる中、ピノチェトの任期延長の是非を問う国民投票の映像キャンペーン。 若き広告プロデューサー。思わせぶりな場面が、いま...... [続きを読む]

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