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2014年1月 5日 (日)

永遠の0

 抜群の操縦技術を持ち「海軍一の臆病者」と罵られながら妻子のため生還することにこだわった零戦乗りとその周辺を描いた映画「永遠の0」を見てきました。
 封切り3週目日曜日、新宿ピカデリースクリーン1(580席)午前9時10分の上映は5~6割の入り。

 祖母松乃(井上真央)の死をきっかけに母清子(成人後:風吹ジュン)の血縁上の父(つまり祖父)が別にいることを知った司法試験浪人の健太郎(三浦春馬)とライターの姉慶子(吹石一恵)は、血縁上の祖父が太平洋戦争で特攻隊員として死んだ宮部久蔵(岡田准一)という零戦乗りであることを知る。生き残った戦友たちから聞く宮部像は、「海軍一の臆病者」というもので、健太郎はしょげるが、聞き取りを続けるうちに宮部が抜群の操縦技術を持ちながら生還に固執して戦闘を避け自分にも生還を命じ自分は宮部のおかげで今生きていると話す末期癌患者井崎(現在:橋爪功、戦中:濱田岳)や宮部を臆病者というと激怒する景浦(現在:田中泯、戦中:新井浩文)に出会い、宮部久蔵の調査に積極的になる。調査の結果、宮部が妻子のために生還にこだわり続けたことや開戦後一度は自宅に戻り赤子の清子と会っていたことがわかり、清子は感激するが、健太郎は、そこまで生還にこだわった宮部がなぜ特攻隊員として出撃したかを疑問に思い…というお話。

 宮部久蔵が妻子のために生還することにこだわり、部下に対しても生還を命じ、同僚や部下の死を嘆き、上官に叱咤され殴られてもその姿勢を変えなかったこと、そしてそれを聞いた清子と慶子が宮部の姿勢をうれしく思うところは、戦争が庶民、女子どもに犠牲を強いる不条理なものであり、国のために死ぬのではなく家族のために生きることを優先すべきということをいうことを示しており、そこで止まるならば、この映画は反戦映画ともなり得たと思います。
 しかし、この作品は宮部を「海軍一の臆病者」と罵られてきたが最終的には実は軍の観点からも英雄であるように描き、この作品の語り手に位置づけられる健太郎が、特攻隊と自爆テロはまったく違う、おじいさんは命が惜しかったんじゃないんだと語り、その血を受け継いでいる自分に誇りを持つ姿を映し出し、ラスト付近では無自覚に生きる若者たちに対する健太郎の軽蔑の表情を浮かばせて、国のために死んだ宮部らのおかげで現在の日本があるという印象を持たせています。ラストシーンの宮部の姿と、おじいさんは命が惜しかったんじゃないんだという健太郎の言葉で、国のために命を捨てるという思想自体は肯定的に、あるいは前提として提示されています。少なくとも、健太郎の視点は反戦ではなく、むしろ戦争というか英霊の賛美を志向するように見えます。
 また宮部の姿勢としても、生還を言うのは自分と部下に限られます。家族がいるなら生還しろというのであれば、宮部が爆弾を積んで突っ込むアメリカの空母の乗組員たちにも当然に家族はいるわけですが、そこはまったく考慮されません。健太郎が「特攻」は肯定しながら「自爆テロ」は否定することも含め、外国人の命には思いは及ばないようです。

 そして、そういう感性だから当然かもしれませんが、健太郎は、まだ見ぬ宮部を「本当のおじいさん」と呼び、その血を引いていることに誇りを感じます。一度も会ったこともない宮部の方が、長らく育てたり様々なことを現実に教えてくれた金にならない事件を人のためにと続けている弁護士の祖父(夏八木勲)よりも立派だとか価値があるというのでしょうか(健太郎が司法試験を受けているのは、ふつうに考えれば育ててくれた方の祖父の薫陶が影響していると思うんですが)。むしろ私の感覚では、会ったこともない人物との血縁よりも、血縁がないのに育ててきた人物の「意志」の方がよほど価値があると思います。血縁ばかり重視したがる風潮には、国家や英霊を賛美したがる風潮と同様、違和感を持ちます。

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