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2013年9月28日 (土)

凶悪

 死刑囚から余罪を告白されその首謀者を告発する雑誌記者を描いた映画「凶悪」を見てきました。
 封切り2週目土曜日、ヒューマントラストシネマ渋谷シアター1(200席)午後2時10分の上映は7割くらいの入り。

 雑誌「明朝24」の記者藤井(山田孝之)は、上司芝川(村岡希美)の指示で編集部に手紙を書いてきた死刑囚のヤクザ須藤純次(ピエール瀧)に面会し、須藤から3件の殺人事件を告白され、全ての首謀者は自分が「先生」と呼んでいた人物であり、首謀者がのうのうと娑婆にいることが許せないと言われた。調査の結果「先生」と呼ばれる人物は不動産ブローカーの木村孝雄(リリー・フランキー)で、うち1件の被害者が行方不明でありその被害者の土地の周辺で「先生」と呼ばれる人物が売却に動いていたことがわかり、藤井は芝川に須藤の告白は信用できると報告するが、芝川は不動産ブローカーとヤクザが組んで人を殺しても当たり前すぎて記事にならないと却下する。あきらめきれない藤井は、須藤との面会を続け、1人で調査を続けるが…というお話。

 首謀者とされる木村の凶悪さの程度ですが、貸した金の返済を迫る時に借り主の首を締めやり過ぎて殺してしまった木村が知り合いのヤクザ須藤に助けを求めて死体を無事に処理してもらえたことから、味を占めたというのか、大胆になり、老人を殺してその財産を奪ったり生命保険金を得るという錬金術を編み出していくという経緯で、どちらかというと元は小心者の木村が須藤の力を背景に悪のりし暴走していくという感じです。そういう意味では、木村が絶対的な「首謀者」とも言いきれないように思えます。躊躇を見せない冷酷さは、木村にも備わっていますが、頭に血が上りやすく輪をかけて実力行使・暴力に躊躇しない須藤との組み合わせがことを悪化させていると読めます。木村の凶悪さを評価する際には、木村が2件目の殺人事件を思いつき計画する過程が重要なポイントになると思うのですが、この作品ではそこがあまり描かれていません。そこはもう少し丁寧に描写して欲しかったと思います。
 木村の犯行の凶悪さは、老人の命を金に換える錬金術というか犯罪ビジネスの性質にあると思うのですが、3件目の保険金殺人では多額の借金を抱えた家族が木村の誘いかけに承諾しむしろ殺人を求めているという点に考え込まされます。この作品では、藤井が認知症の母親(吉村美子)を抱えその世話に苦しみ繰り返し老人ホームに入れようと迫る妻(池脇千鶴)に曖昧な態度をとり続け、さらには妻から時々母親を殴っておりもう罪悪感も感じないと言われ、1件目の死体遺棄に関わりその後「事故」で植物状態となっている土建屋の妻が正直なところ死ぬのを待っている状態とつぶやく場面を入れることで、老人に対する(ささやかな?)悪意が社会一般に存在し他人ごととは言えないことを示しています。つまり木村の持つ凶悪さは、多くの人の心をも蝕んでいるかもしれず、またこの社会が内包しているのではないかという問題提起が感じられます。

 他方において、ある種小心者の側面を持つ犯罪者のそれほど大規模とも言えない(判明しなかった事件を含めると潜在的には大規模であるのかもしれませんが)一連の犯罪に「凶悪」というタイトルを振るのは、警察が気がつかなかった犯罪を雑誌記者が独自に調査してスクープしたことへの興奮と自己主張の強さ故でしょうけど、権力と闘ったり権力犯罪を暴くこととは無縁の部分で一個人の犯罪を暴き立てることに血道を上げる雑誌記者の自己満足が私には鼻につきます。映画では、ストーカー殺人事件の遺族への取材に行った藤井に対して、遺族が面白おかしく書くばかりで被害者のことなんて考えちゃいないと雑誌記者を批判する場面を入れることで、多少は問題意識を見せているということなのでしょうけれども。

 弁護士の目には、東京拘置所の受付後面会室に行くためのエレベーターに至るまでの1階の廊下の雰囲気が右側へのカーブも含め非常にリアルなのが感心しました。
 法廷も、証言台の位置が(裁判官側から見て)後方過ぎるんじゃないかなという点に違和感を持ちましたけど、全体としてはかなり本物の雰囲気を出しています。
 そういった刑事施設・裁判系のビジュアルの水準は高めの作品だと思いました。

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